理事長挨拶
「日本の危機」が叫ばれてすでに時久しいものがあります。
世界最速で進む少子化と人口激減、物作りや知財分野の急激な衰退、基幹産業の不在、さらには国柄の中核にある皇室の男系男子継承が危機に見舞われています。民間活力が叫ばれながら国庫負担は増大し、国民経済を疲弊させています。さらに寒心に堪えないのは、日本の伝統的な叡智や文化の破壊、共同体の絆の消滅、日本史上最低水準にまで落ち込んだ教育と教養の惨状です。
こうした日本国民の「氣」の衰えに応ずるかのように、ロシア、北朝鮮、中国の軍事的脅威は極点に達しています。食料、エネルギー、情報の安全保障も脆弱そのもので、台湾危機が勃発すれば短時間の内に国民の生命は危機に瀕するでしょう。
これらは一時的な病というにはあまりにも全体的な崩壊現象であり、アルノルド・トインビーの「神話を忘却した民族は三代で滅びる」という有名な言葉を想起させて余りある状況と言わねばなりません。
その意味で、今、我々に必要なのは個々の危機をバラバラにとらえて弥縫策を講じること以上に、日本文明の構造的な再生であります。全体としての日本が衰弱している、その全体にアプローチすることこそが我々に求められているのです。
ところが日本には全体を俯瞰する思想、文化の営みをもとに国家ヴィジョンを追求する頭脳組織が存在しません。
昭和戦後は政界、官界、財界に高度人材が集約され、まがりなりにもシンクタンクとして機能していました。しかし、平成の政治改革がその構造を解体し、昭和まで存在した国家単位で思考する人材ネットワークは消滅します。
その国情をよく理解し、状況を大きく変革したのは故安倍晋三元総理でしたが、私が身近で共に仕事をしつつ痛感したのは安倍政権が数人の番頭と手代で回している個人商店であること、安倍氏その人が個人シンクタンクであること、つまり日本では国家単位の頭脳が全く構造化されていないということでした。
当研究所は長年文藝批評家として研究を重ねてきた人間観、世界観、国家観と、安倍氏と同伴してきた国事の経験をもとに、日本の叡智の構造化を目指します。
私はもとより非力な一文筆家に過ぎません。しかし、非力だろうと頓挫しようと、誰かはこれを始めねばならないのです。
幸い、現代を代表する優れた頭脳と藝術的感性たちが行を共にしてくださる運びとなりました。規模こそ小さけれどパワフルな原石であると自負しています。
当研究所は、日本再生のための鍵概念を右ページの4項目に集約し、活動を展開します。
大方のご賛助を心から希うばかりです。