見聞案内 川端康成コレクション――伝統とモダニズム

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会期:平成28年4月23日(土)-6月19日(日)
タイトル:川端康成コレクション 伝統とモダニズム
会場・詳細:東京ステーションギャラリー

“知識も理屈もなく、私はただ見てゐる。”というキャッチフレーズがこれ以上ない程に真実味を持って響く、非常に個性的かつ贅沢な展覧会だ。展示は、絵画や美術品と、初代と送りあったふみをはじめ、文壇人達との書簡の展示という、二つの分野に大きく分ける事ができる。また、「川端康成と浅草」と題された展示コーナーでは、『浅草紅団』の装幀や広告、川端が浅草通いで集めたチラシの数々など、貴重な風俗史を見ることもできる。

14点と最も多く出品された東山魁夷は前半の見どころと言える。印刷では中々青緑の深みや陽の光の色の眩しさまでもは捉えにくい『静宵』をはじめ、川端の小説『古都』を読んでいればより一層胸を打つであろう『北山初雪』などは、是非実物で見ておきたい逸品だ。また、告知ヴィジュアルに使用された写真にも登場しているロダンの『手』は、実際はとても小さく、かつ人間の手とはこうも複雑で表情豊かなものだろうかと、川端康成でなくともじっと見入ってしまうものがある。展示点数が非常に多いので、ひとつひとつじっくり見ていると何時間も掛かってしまうが、どれもよく見れば味わいがあるように思えてくるから不思議だ。

また展示品の陳列されている合間にいくつか川端のポートレイト写真が展示してあるのだが、その中で最もインパクトのあるものが、縄文時代の土偶『女子』と共ににっこり満面の笑みを見せる川端だ。実際の『女子』は顔の部分がハート型のようになっており、ほんわかとした不思議な風貌だが、一緒に写真に収まる川端の子供のような目の輝きは、見るものを戸惑わせるほどの透明な愛に溢れている。

そんな幸福感とは裏腹に、川端の中にある所謂「魔界」な部分を匂わせるのは、浦上玉堂の『凍雲篩雪図(とううんしせつず)』だ。川端はこの絵を手に入れるために、大変な苦労をしたと聞く。焼き出されて現物はもう無いと言われていたのに偶然出会い、所有者をアポ無しで訪ね、頼み込んでやっとの想いで買い取ったが、国宝に指定されるのはその後のこと。川端をそこまで魅了したものは一体なんだったのか、現物から漂う迫力から感じとれるのではないだろうか。

この度、初のコンセプトで編まれた『川端康成初恋小説集』と併せて楽しみたいのは初代との手紙のやりとりだ。特に初代に届けられなかった未投函の手紙の、切々とした文章は実に見ものではあるが、こういったごく個人的かつ心の奥深くにあった感情を、幾万もの人々の目に晒されてしまう文豪の身は不憫でもある。初代への手紙の川端の書き文字は、とてもちんまりしていて可愛らしいもので、「美しい日本」などのあの勢いのある毛筆の書を知っていると意外でならない。それは、縄文土器に目を輝かせる川端と、玉堂を追い求めて手に入れる川端の二面性と共通しているようにも思える。

会期は6月19日(日)まで。その美的感覚だけを軸に、あらゆる分野を自由に横断する美の旅を、是非体験してみて欲しい。

(案内人 平よお)

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